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  • Writer's pictureTomizo Jinno

A.I.生成によるナレーションの可否

Updated: Aug 2, 2023

僕の仕事仲間には「声」で仕事している人も数多くいて、そういう仕事の人たちからは「総スカン」を食らいそうな話題なのですが、最後まで読んでください。

「ナレーション」の最高権威は日本放送協会・NHKです

およそナレーション原稿というものを読む仕事をする人なら、9割以上の人が「NHK日本語発音アクセント新辞典」を持っているか、少なくとも参照しているのではないでしょうか。もし「そんなもん要らんわ」というナレーターがいるとしたら、よほどの個性俳優・声優として世間に認められている人に違いありません。 この辞典に書かれている“アクセント”は「へんなのー、そんな読み方フツーせーへんぞー」という人がいたら、間違いなくその人が間違っています。だって、NHKが正しいとしているアクセントが書いてあるのですから。自分の発音がそれと違っていたら、あなたが変なのです(半分は冗談です)。 ・・・と偉そうなことを書きましたが、僕は「NHK日本語発音アクセント新辞典」を信奉しています。だって、実際にNHKのアナウンサーはほんとにナレーションが上手いんだもの(もちろん松竹梅はある)。「上手い」というのは、「言葉が耳にちゃんと届く」「まるで子守唄のように心地よい(リズム)」「音声だけで情景が浮かぶ」「映像があれば、その映像を引き立てる」それでいて「個性がある」 これに対して、民放アナウンサーやレポーターは、もうめちゃめちゃ。聞くに耐えない人がなんと多いことか。さすがNHKはアナウンサーをちゃんとトレーニングしているし、そのバイブルとして「NHK日本語発音アクセント新辞典」があるのだと、僕は思っています。もちろんナレーションを読む技術やセンスは、辞典に書いてありません。そちらもたいへん重要です。


ところで

最近、お客さんから「ナレーションはA.I.音声でできませんか?」と言われることが増えてきました。その多くがやはりコスト削減できないかと考えてのことのようです。そういうオーダーには「もちろん可能です」と答えるのですが、いくつかの条件を理解いただいた上で、というお断りをしています。 ①現在のA.I.音声合成は日本語もかなりの完成度を見せていますが、どうしても発音が難しい(奇妙なアクセントやイントネーション)単語や文脈があり、それについてはどれだけ工夫しても克服できないことがある。 ②将来、ナレーション原稿の変更、更新が必要になった時に、同じ声質で再現する保証ができない。 ③ナレーター費用、スタジオ費用は掛からないけれど、音声合成作業、MA(ミックスダウン)作業費用、演出費用は頂戴します。

A.I.音声合成。けっこう使える

最近の「初回試写※」では、僕はほとんどの場合A.I.音声合成を利用しています。 だって、映像編集する時に、ナレーションが先にあればなんといってもタイミングが取りやすいですから。言葉の頭と尻で、気持ちよくカットを切り替えたい時には、絶対に必要です。特に最近流行りのインフォグラフィックス、モーショングラフィックス系の編集時には必須です。 以前は自分の声で読みながら「せーの、トン!」とキーを叩いたり、自分でナレーションを読んで、録音して、タイムラインに並べていました。前者ではどうしてもフレーム単位でズレるので、本ナレーションを録音したら映像を再度微調整しなくてはならなかった。後者では自分の声を何度も繰り返し聞くというとても気持ち悪い思いをしていました。 もちろんお客さんも、まるでもうナレーション録音したのかと間違えるほどの完成度で試写を受けられるから大喜びです。さらには社内利用が前提の映像では、A.I.音声で「はい完成!」となる事例も増えてきました。


※初回試写は映像がひと通り編集できた時点で、まだナレーターによるナレーションを録音する前に行います。いちど録音したナレーションに、後日変更が入った場合、ナレーター費用、スタジオ費用、演出人件費が追加になるためです。

さて、ナレーターの皆さんの失職問題はどうするのか?

僕がA.I.音声合成をある程度気に入っている理由のひとつは、たまにどうしても発音できない単語あることに目を瞑っても、そのほかの大半で、ディレクターである僕の思い通りに読んでくれるからです(生ナレーターの中には、アクセントが出鱈目で、どうしても主語・述語・目的語の関係を理解、表現できない人がいる)。しかもペースが乱れない。もちろん、かなりの試行錯誤でA.I.に指示を出さないと「思い通り」にはならないので、かなりの時間は要します。(だからこの辺の演出費用、技術料はいただかなくてはできません) A.I.ナレーターの問題点はただひとつ

味がない(個性がない)。 「NHK日本語発音アクセント新辞典」の指示通り読めただけでは味は出てきません。味の中でも「旨み」成分がない。 結局のところ、生身の人間、実際に居る人間で、多くの人々を惹きつけた声。その実績ある声・話し方こそが旨み(個性)なのです。さまざまなコンテンツが表現した世界観、その世界観を読んだ声。人々の脳裏に残るその声の記憶こそがオリジナリティある個性(旨み)となるのです。 A.I.に「ユニークな発声で」と指令して出てきた、聞いたことのない声、顔のない声に人は感動すると思いますか?感動というのは、なにがしかの記憶と結びつかないと醸成されません。初めて聞く声に記憶があるわけがありません。もしあったとしたら、それは生身の誰かの個性との類似性です。

経験を積んでね

ナレーター職のみなさん、個性を磨いてください。つまり経験を積んでください。たくさん、色々と。名古屋に新しい個性あるナレーターが育つことを期待しています。もちろん基礎技術は研鑽を。

A.I.生成によるナレーションの可否


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