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  • 株式会社映像設計 代表取締役 神野富三

余談。段取りを撮るVP

Updated: Jan 3, 2021


DSLRってなんですか

デジタル一眼レフカメラのことです。略してDSLR。

近ごろDSLRによるムービー撮影が、B2B映像制作の現場でも増えてきました。単純に撮影に使用するカメラ機材が替わっただけと思ったら、これはじつは大きな勘違いなのです。

VPってなんですか

B2B映像はこれまで、業界用語でVPと呼ばれていました。なんとこれビデオパッケージの略であります。あまりに単純な呼び方だし、どうしてこれがビジネスユースの映像ソフトのことを言うのでしょうか。

昔は映像ソフトと言えば、テレビ番組、テレビCM、劇場映画くらいしか無かった時代が長く続きました。それらのコンテンツはたいてい電波か興行配信で視聴者に届けられていたことに対して、VPはそのコンテンツがVHSやβmaxテープという形ある箱に入っていたこと。

そして、高額な機材とスタッフを使って、広告宣伝やマニュアルとして映像ソフトを作れるのは企業くらいしかなかったので、すなわちビデオパッケージ(VP)=企業ビデオだったのです。

ビデオパッケージという映像ソフトのつくり方

このVPという映像ソフトの制作は、企業への企画や構成案提案によって始まり、絵コンテのような仕様書?のやりとりによって情報共有・理解を深め、ITでいうところの要件定義=シナリオをまとめ上げた上で、撮影の現場に入ります。

すなわち、撮影時には要件として定義された絵が撮れればOKなので、絵コンテのカット割りに描かれた構図を、その通りにどんどん撮っていきます。

要件を撮っていくという作業

こうした撮影は、例えば「データ入力している女性のキーボードを打つ指先」という命題であれば、キーボードを指先がスムーズに打っていっればOKです。

次に「モニター画面を見つめる目」というカット割りなら、カメラを据えかえて、女性の目元を狙い、女性が妙な瞬きさえしなければ、これもOKでしょう。

ことほど左様に、カメラが狙っているのは、キーボード、指先、目元、といっ要件を満たすことであって、決してカッコイイとか、堪らない笑顔の瞬間とかではありません。こういう撮影のことを「段取りを撮る」と言います。VPのカット割りは、大概の場合「段取り」で終始しているのです。(もちろん例外の企画もあるし、必要に応じてある程度拘っています)

機材もそれに合わせて進化した

なにが言いたいかと言うと、従来のVPの撮影現場では、シナリオに書き込まれているシーンを構成するためのカットの、要件要素を満たす映像を撮るための現場です。旧来からあるプロ用のビデオカメラは、こうした現場を高効率に高品位に撮影できることに特化した機材が主流でした。

写真を撮るような感覚で動画を撮る

ところが最近流行りのデジタル一眼レフカメラ(DSLR)は、まるで一枚一枚の写真を撮るようにレンズを交換し、焦点を一点に合わせて撮ります。なによりも狙っているのは決して要件要素だけではなく、ある一瞬のカッコイイ瞬間や感動的な光だったりします。つまり、こうしたカメラを使うこと自体が企画の一部であり、「映像美」が訴求要素として大きな位置を占めているのです。

カメラマンにしか見えていない世界

カメラを構えた前方に、傍目に要件要素が満たされている空間があったとしても、それを切り取ろうとしているカメラのファインダーが、そういう瞬間を捉えているかどうかは、カメラマンだけにしかわかりません。要件と美しい瞬間が一致した時を捉えないとOKはでません。おうおうにして、そういう瞬間はなかなか訪れません。だからカメラマンは粘り強く構え、時にあっちにこっちに位置を替え、ちっとも次のシーンに移ってくれないのです。

反面早くなったこと

ただし、救いは照明についての考え方も違うこと。従来のVPでは、被写体や空間に影が出ることをとても嫌い、照明機材をたっぷり使い、時間もしっかりかけて照明をセッティングしていましたが、DSLRで撮影するような絵柄は、むしろそうしたわざとらしい照明を嫌います。

だから、昔のような照明待ちでジリジリと時間が過ぎていくことはありません。

ただ勘違いしてはいけないのは、こうしたDSLRでなければ撮れない映像の企画と、従来からのビデオカメラで収録するほうが効率的な企画は、狙っている映像の世界が異なるものです。ここを理解せずに、普通のVP?をやみくもにDSLRで撮影するのは意味の無いことです。

ただ、昨今はDSLR映像の世界観が受けていることは確かです。

プロデューサーの僕としては、面白くなったこともあれば、管理が難しくなった面もあります。ひとつ言えるのは、自分自身で映像のイメージを予めもっていて、それをディレクターやカメラマンと共有する技術を鍛えること、それが重要なことと感じています。


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