とてもシンプルな周年記念映像だけど、よくできている
僕が映像制作業界に入って間もなく、業界で有名な監督が講師となり「映像制作者としての心構え」みたいなテーマの講習会があった。
本編映画であろうと産業映画であろうと、テレビ番組・CMであろうと、映像をつくることに関わる人間は「こうあるべき」と、おおかたひとつの価値観に統一されていた時代だ。つまり今の時代は逆で「何でもあり」。てな話は置いといて・・・。
なぜその講習のことを思い出したかといういうと、たしかある福祉施設の紹介映画を題材に監督が、「この作品のどこが凄いとおもうか?」という問をしたのに対して、僕が「マイクやケーブルや照明機材が映り込んでいる映像を使ってしまっている」「普通こんなカットはNGだ」「でもむしろ、そこにこの映像の迫力を感じる」てなことを言った記憶。とにかく入所者のありさまが「鬼気迫る」様子だったのだ。それはそれでリアリティ満点なのだが。
今日紹介する映像は、知的障害をもった人たちがイキイキと働く姿を、気負いなく捉えている、それこそ「やさしい映像」だ。僕が記憶している例の福祉施設の映画は、この対局にあるような激しい映像だった。と思う。
しかし、このやさしい映像には、もうひとつ素晴らしい着眼点がある。
それはこうした周年記念の映像というのは、たいがい過去から現在への道のりを辿り、そして未来へ、という構成がほとんど。だが、この映像は現在から過去へ遡り、やがて出発点となった場所に戻る。
未来に向かっていく映像のエンディングは「未来を創ろう!」みたいなオチになるのが定番だが、そのオチはそれこそ奈落に落ちるかもしれない不安を伴っている。
いっぽうこの原点に戻るタイプの映像は「ここは私達の居場所」「これからも変わらずにここにあるよ」という、そんな安心感を感じさせる効果があると思う。
いつかまた周年記念映像の仕事がきたら、これやってみよっと。
シナリオ ☆☆☆
オリジナリティ☆☆
デザイン ☆
サウンド ☆
演出安定感 ☆☆